反対デモが激化するフィンランドの難民受け入れ事情

前回の難民受け入れ大作戦から1カ月が過ぎようとしている。EU議会で分担制で難民を受け入れるようにと緊急可決があった後、世間の様相は段々と変化してきている。

何と言っても受け入れ人数が予想を遥かに上回り始め、滞在予定施設の近隣住民からは苦情などが相次ぎ始めた。

Pohjanmaan Kauhava(ポホヤンマーカウハヴァ)という人口1.6万人の町に設置した難民のための待機施設に、300名ほどの若い男性ばかりが来る予定のようだが、この施設の近隣に中学校があり、ここに通う女子中学生の親御さん達が「レイプの恐れがある」などと不安を募らせているという。

首都のヘルシンキや隣国スウェーデン国境にあるトルニオ市やケミ市などでは、難民受け入れ反対デモが繰り広げられ始めている。

一方難民の間では、どこの国へ逃れるのが良いかなどをSNSで共有しているようで、フィンランドに対してはもちろん賛否両論ある。
その反対派の意見で最も多いのが「フィンランド人は人種差別する」というものだ。その証拠に、国内をやや揺るがせた事件があった。

Lahti(ラハティ)という町にある臨時の難民待機センターへ到着した難民を乗せたバスや難民支援団体の赤十字社のスタッフなどに、花火や投石をしたり野次を飛ばした事件が起こった。このグループの中の一人は“Ku Klus Klan(KKK)”(白人至上主義団体)の恰好(白装束で頭部全体を覆う三角白頭巾)をしていたという。

これに対して大統領をはじめとする政府首相は、デモを非難している。特に外相でフィンランドの保守派(フィン人党)である Timo Soini氏は「KKKの恰好してフィンランドの国旗を持ってデモをしたことは遺憾である」とコメントしている。

こういう国内のデモが北欧諸国へ流れたため首相は「フィンランドは人種差別の国ではない」というネガティブなイメージを払拭しようと必死に北欧諸国のメディアへ働きかけていた

国内の警察当局も難民施設の周囲の警備を強化したりと、難民を受け入れる環境がだんだんと重々しくなってきた。

難民に対する経済負担額だが、フィンランドは、大きく2つに分けて難民施設に住んでいる場合とその他の住居に住んでいる場合とで分かれるが、どちらも同額に設定されていて、施設に住んでいる場合の食事の有無で金額が異なる。難民施設の場合は、1カ月当たり316ユーロ(食事なし)と93ユーロ(食事付き)。その他の住居の場合は316ユーロとなっている。

これは他の欧州諸国の難民受け入れ国と較べて、決して安くはなくむしろ高い方だと感じる。

このような社会保障が整えられているからこそ、難民受け入れに積極的になれるのだろう(先の北欧諸国間のメディアでは消極的と言われているが)。

今週始めに内務省は、この難民経済負担額にさらに6千万ユーロを追加する方向性を打ち出した。年内中には約1万5千人もの難民たちが入国すると言われ、難民申請のための諸々の手続きなどを含めると、政府の来年の予算案はまだまだ確定するには時間がかかると思われる。

フィンランドの難民受け入れ大作戦

今月に入ってから、シリアやイラクからの難民が欧州へ押し寄せているというニュースが連日報道されている。ここフィンランドでもその報道は過熱しており、SNSなどでは人道的支援を呼びかけている。

フィンランドは、以前より難民や私のような移民を積極的に受け入れてきており、受け入れ後の語学学習や社会保障などは、日本人からすると有り難いぐらいに手厚い制度が整っている。難民の起業サポートも充実している。
それは国の人口わずか540万人だからこそ、こうした難民、移民を受け入れてこなければ、今後の高齢化社会に向けて国全体の労働力が失われる、という考え方があるのだろう。もちろん、人道的支援という根本的な考えがあってのことだが。

こうして歴史的に難民を受け入れていれているフィンランドでは、今回どのような動きがあるのか、かいつまんでみてみようと思う。

まずは、大統領が率先して難民受け入れ宣言を発表。そしてその2日後には、今度は首相が自宅の一部を約20名ほどの難民へ提供する、との宣言。首相の心の深さに同情する、という賛成意見もあれば、困惑している近所の住民ももちろんいる。

このような「ホームスティ」型で難民を受け入れることは今まで違法であったのだが、今回のこの動きを受けて早急にガイドライン作りに着手したようだ。しかし見切り発車状態で問題が山積しているとの見方もある。

いやこの動き、日本人からするとものすごく早くて驚いたのだが、それは私だけだろうか。以前の同性婚の法律が制定されたときにも感じたこの「国が動いている」感覚。

日々社会が動いているのに、数十年前の法律や制度のままでどうやって現状を解決できるというのだろうか。そんなことを一挙に打破するかのようにこの国の政治はすぐに動く。それが一般市民に手に取るようにわかるのだ。

そして難民に対する賛成意見と反対意見の対立が明確に分かる。これは民主主義国家としてデモがすぐに展開され、そして報道される。報道の自由度はちなみに世界トップであるから、報道されないとなるとこれまたデモが起きる。

一方の市民レベルの動きはというと、即座に赤十字社を中心とするボランティア活動が始まった。首都ヘルシンキを皮切りに地方都市など全国レベルで展開するらしい。

そんなニュースを聞いていたらFBでもボランティアや衣類などを募る投稿が流れてきた。我が家が住んでいる地方都市には、既に500人もの難民がおり、さらに100人を受け入れる予定だそう。これからの季節に備え防寒服を特に募っていて、今の段階では男性物が足りないとのこと。微力ながら我が家から5袋を寄付した。

Punainen risti

「近くの赤十字社内に設けてある『難民受付センターへの寄付はこちらへ』との案内板」

ちなみに国内の難民受け入れ施設および難民の人数は、以下の通り。

黒丸が既存施設、緑色が予定地、赤色は一時的な緊急施設地となっている。

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出典:(9月5日付けの記事)

また企業レベルでは、フィンランド中央銀行の総裁が、1カ月分の給与を赤十字社を通じて寄付するとの報道があったり、フィンランド企業のFinlaysonが寝具セットを、Elisaが携帯を寄付するなどの動きが出てきた。企業の社会貢献の一環であることを承知の上での活動だ。

そしてつい先日、ヘルシンキでは難民たちを受け入れる“SuomiSaysWelcome”という歓迎イベントが首都ヘルシンキを中心にいくつかの地方都市でも開かれた。

さて。ここまで書くといかにもフィンランドは難民受け入れに積極的で全国民が賛成および歓迎しているかのように聞こえるが、もちろん眉間に皺を寄せて複雑な感情を持つ人や断固として反対という人も多くいる。

「複雑な感情」とは、難民たちが離ればなれになっている家族や友人たちとの連絡ツールにWifi通信でスマホを使用したい、という願いに対してのようだ。確かに家族揃って移動してきた人々ばかりではないだろう。そうなると何かしらの連絡手段が必要で今の時代はやはりスマホ1台ないと困るのだろう。昔だったら、公衆電話の前に長蛇の列をして連絡を取るだろうけど、21世紀の難民たちの通信手段はそうはいかない。

それに対して、衣食住だけでも予算や人手が必要なのに通信網までも!となると、やはり「え?」という感情を抱く人はいるようだ。前述のElisa社やIT企業が携帯電話やスマホ、そしてWifiルーターなどを寄付しているらしいが、果たして希望者全員に行き渡るのか。

これは企業の社会的責任の一環である社会貢献活動であると言えるので、企業側からしたら良いインセンティブになるだろうけど、国民側からしたらやっぱり複雑な思いなのかしら。

そして断固して反対派の主な意見は、フィンランド国内は今もの凄い勢いで不況に陥り、ほぼ毎月のように企業からの解雇命令が出て失業者も増加しているのに(失業率は2ケタに)、難民を助けている場合ではない。そんな余裕があるならまずは自国民を助けろ!というデモが相次いでいる。

そんな賛成反対の意見があっても難民は日々増え続けている。

9月半ばを過ぎ、スウェーデン経由で到着した人々が約1600人いるという。これは、スウェーデンよりもフィンランドの方が難民申請に時間がかからない、という理由らしい。そのため国境付近のラップランドでは、入国監視に力を入れ始めたようだ。

近い将来、EU諸国内でいち早く高齢化社会になると予測されているフィンランド。今からその対策を取る段階に来ているのかもしれない。