本当のフィンランドを知るためにーワーキング・ホリデー制度の導入ー

 

先週フィンランド大統領夫妻が来日し、両国の首脳会談が行われ共同声明が発表された。だいたい想定内の内容だったが、一つだけ想定外のものがあった。それは「両国間のワーキング・ホリデー制度の導入に向けた作業の加速化を事務当局に指示」(「II、経済、科学技術、教育および平等」の上から6番目)。

考えてみればこれだけ日本国内でブームとなっている国とワーホリ協定を結んでいないことが不思議だったのかもしれない。フィンランドでも日本ブームと言われて久しい昨今、周りにいる親日家のフィンランド人たちもその昔この制度があればと願っていたという。

現在どの程度まで進んでいるのかわからないが、「作業の加速化」とあるので願わくばここ数年の間には導入開始されるのではないだろうか。

導入されれば15番目の協定国(この間に他国が導入されるかは不明)、デンマーク、ノルウェーに続いて北欧諸国内で3番目の協定国になる。

なかなか現実のフィンランドが日本へ伝わらない・理解されない今、こうして一定期間に滞在して実体験を経験することは有益だと思う。日本に興味のあるフィンランド人も同じ。彼らもある程度は日本社会のことを把握しているだろうけれど、実体験してみないとわからないことはたくさんある。日本の就労状況についていうと、残業多い、セクハラ・パワハラあり、飲み会あり、なんてことはある程度知られているが。

夏休みもしくはスキー休暇辺りの期間で就労体験を実施するとなると、“Kesätyöt”(=サマージョブ)の募集が早くも始まっているのでどんな職種があるのか見るのは興味深い(同じ職種・業種がワーホリの人たちへ提供されるかはもちろん不明)。

経済不況に難民問題などの解決の目処が未だにたたないフィンランド。ワーホリの他にインターン制度もさらに進展させていくようで、こうした国際交流を通じて人的資源をどう受け入れ活用していくか。小国家の将来を担う役割となるか。そして日本国内でフィンランドの現実が正しく伝わり理解されるようになるのか。これからこの制度の導入の行方に注目したい。

 

 

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フィンランドをはじめとする北欧諸国は夢の国か?

 

 

以前よりフィンランドの現実について、その後常々書こう書こうと思っていたら、2016年も早1カ月が過ぎた。そんな中、同じ北欧諸国のノルウェーに暮らす鐙麻樹さんがこんな記事を書いていた。

 

「世界一の…」、「幸せな北欧」というテーマであれば、福祉制度や男女平等社会などの裏には、課題点もあるはずだという見方をぜひしてみてほしい。

 

 

フィンランドだけではなく他の北欧諸国もある種の報道被害に遭っていたんだな。

鐙さんが言うように日本のメディアの伝え方が大きな問題であることは間違いないが、それを受け止める側にも問題があると思う。

私が学生のころ、“Critical Thinking”が一時流行ったが、今でもこういう思考はあまり日本では浸透していないのかしら。

 

そういえば先日、こちらに住んでもう20年近く経つという方とたまたま話す機会があった。その方は職業柄、日本人の観光客の方たちと接することが多く、ある日20-30代と思われる女性が一人旅でこの方のところへ訪ねてきて「どうすればフィンランドに住めますか?」「どうすればフィンランド人と結婚できますか?」などと突拍子もない質問をしたという。

この女性の方は以前からフィンランドに憧れていて、漸く時間とお金ができたので一人旅をしに来たのだというのだが、この相談された方はどうアドバイスをしたら良いのかわからなかったという。

憧れて移住することなんて日本人だけでなく他の国々の人たちだって同じ。憧れるきっかけも何でもアリだし、そんなの一人ひとりの勝手。

けれども事実と違うことを鵜呑みにしたまま憧れてくると、目の前にドッカーンと現実が横たわっていて、そのギャップにどう対処していいかわからなくなる人もいるという。鐙さんも書いていたけれど「パリ症候群」にかかるらしい。

先の長年住んでいる方も「フィンランドに憧れて住み始めた人の中には『あれ?思っていたのと違うわ』といって日本へ帰った人も、もちろんいるわよ」と言っていた。

フィンランドは高緯度で日照時間が短いから鬱(うつ)になりやすく、人口は日本の約20分の1なので一般道路を歩いていても誰も会わない時もあったり、加えてコンビになんてないから近くのスーパーへ行くにも車を走らせなければならなかったり、つまり人口が少ないから国内市場が小さく最新の失業率は9.2%(2015年12月現在)。そして福祉国家の現実は日々の買物に消費税24%を支払う。つまり物価が高く現在の日本の消費税の3倍を支払わなければならないのだ。一方、最近では難民問題が激化しているので、その難民や私のような外国人を含む移民者に対してフィンランド人が人種差別運動を展開したり。

と、一気にネガティブ(ではなくこれが現実なんだけれど)な部分を書いてしまったが、こうしたことを理解しないままに来ると(特に短期も含めた移住)、やはり「帰ろうかな〜」ということになるのだろうか。

マリメッコやムーミンはこんな現実を教えてくれないし、もちろん救ってもくれない。だから観光でひととき過ごすのであれば問題ないだろう。逆にこんな現実を見せないでくれ〜という人もいるだろう。決して安くはない飛行機代を支払い休みを確保して「あこがれの国」へ来るのだから。

問題は、本当に心底移住したい!と考えている方たちが「理想郷」のベールを自ら剥がさずに意識的に付けたまま住み始めることなんだと思う(もちろん全ての方たちがそうであるとは思いません)。

北欧の社会システムは他国ではみられない独特の機能があり、北欧諸国の中のそれぞれの国において異なる。鐙さんが住むノルウェーと私の住むフィンランドでは違う。そもそもこの二カ国についていうと、ノルウェーは立憲君主制国家。王様がいる国。一方のフィンランドは共和国の共和制国家だ。

北欧諸国が世界から注目されるのにはワケがあるのだから、各国の社会制度のしくみや政治のカラクリをちゃんと学ぶ良い機会だと常々思っているのだが、日本のメディアの方たちはそういう側面には目を向けないようですな。こういうテーマだと視聴率が獲得できないのかしらん。

 

北欧諸国を「理想郷」に仕立てあげたのは、何も日本だけではないことを最後に書き留めておこう。

最近読んだ本に “The Almost Nearly Perfect People – Behind the myth of the scandinavian utopia. By Michael Booth” というのがある。これは著者がデンマークの幸福度に魅せられたのがきっかけで、北欧諸国5カ国を旅して興味のあるテーマについてインタビューしたり体験したりするという内容。この5カ国をひとくくりにされやすいがそれぞれ異なる異文化理解を促す部分もあり、ウィットに富んだユーモア溢れる文体。興味ある方は読んでみて日本で受け取る北欧諸国のイメージや理解と比較しても面白いと思う。

ちなみにこの本を家人に見せたら「は?理想郷がどこにあるのかオレの方が知りたいよ」と言って寝てしまった。