フィンランドをはじめとする北欧諸国は夢の国か?

 

 

以前よりフィンランドの現実について、その後常々書こう書こうと思っていたら、2016年も早1カ月が過ぎた。そんな中、同じ北欧諸国のノルウェーに暮らす鐙麻樹さんがこんな記事を書いていた。

 

「世界一の…」、「幸せな北欧」というテーマであれば、福祉制度や男女平等社会などの裏には、課題点もあるはずだという見方をぜひしてみてほしい。

 

 

フィンランドだけではなく他の北欧諸国もある種の報道被害に遭っていたんだな。

鐙さんが言うように日本のメディアの伝え方が大きな問題であることは間違いないが、それを受け止める側にも問題があると思う。

私が学生のころ、“Critical Thinking”が一時流行ったが、今でもこういう思考はあまり日本では浸透していないのかしら。

 

そういえば先日、こちらに住んでもう20年近く経つという方とたまたま話す機会があった。その方は職業柄、日本人の観光客の方たちと接することが多く、ある日20-30代と思われる女性が一人旅でこの方のところへ訪ねてきて「どうすればフィンランドに住めますか?」「どうすればフィンランド人と結婚できますか?」などと突拍子もない質問をしたという。

この女性の方は以前からフィンランドに憧れていて、漸く時間とお金ができたので一人旅をしに来たのだというのだが、この相談された方はどうアドバイスをしたら良いのかわからなかったという。

憧れて移住することなんて日本人だけでなく他の国々の人たちだって同じ。憧れるきっかけも何でもアリだし、そんなの一人ひとりの勝手。

けれども事実と違うことを鵜呑みにしたまま憧れてくると、目の前にドッカーンと現実が横たわっていて、そのギャップにどう対処していいかわからなくなる人もいるという。鐙さんも書いていたけれど「パリ症候群」にかかるらしい。

先の長年住んでいる方も「フィンランドに憧れて住み始めた人の中には『あれ?思っていたのと違うわ』といって日本へ帰った人も、もちろんいるわよ」と言っていた。

フィンランドは高緯度で日照時間が短いから鬱(うつ)になりやすく、人口は日本の約20分の1なので一般道路を歩いていても誰も会わない時もあったり、加えてコンビになんてないから近くのスーパーへ行くにも車を走らせなければならなかったり、つまり人口が少ないから国内市場が小さく最新の失業率は9.2%(2015年12月現在)。そして福祉国家の現実は日々の買物に消費税24%を支払う。つまり物価が高く現在の日本の消費税の3倍を支払わなければならないのだ。一方、最近では難民問題が激化しているので、その難民や私のような外国人を含む移民者に対してフィンランド人が人種差別運動を展開したり。

と、一気にネガティブ(ではなくこれが現実なんだけれど)な部分を書いてしまったが、こうしたことを理解しないままに来ると(特に短期も含めた移住)、やはり「帰ろうかな〜」ということになるのだろうか。

マリメッコやムーミンはこんな現実を教えてくれないし、もちろん救ってもくれない。だから観光でひととき過ごすのであれば問題ないだろう。逆にこんな現実を見せないでくれ〜という人もいるだろう。決して安くはない飛行機代を支払い休みを確保して「あこがれの国」へ来るのだから。

問題は、本当に心底移住したい!と考えている方たちが「理想郷」のベールを自ら剥がさずに意識的に付けたまま住み始めることなんだと思う(もちろん全ての方たちがそうであるとは思いません)。

北欧の社会システムは他国ではみられない独特の機能があり、北欧諸国の中のそれぞれの国において異なる。鐙さんが住むノルウェーと私の住むフィンランドでは違う。そもそもこの二カ国についていうと、ノルウェーは立憲君主制国家。王様がいる国。一方のフィンランドは共和国の共和制国家だ。

北欧諸国が世界から注目されるのにはワケがあるのだから、各国の社会制度のしくみや政治のカラクリをちゃんと学ぶ良い機会だと常々思っているのだが、日本のメディアの方たちはそういう側面には目を向けないようですな。こういうテーマだと視聴率が獲得できないのかしらん。

 

北欧諸国を「理想郷」に仕立てあげたのは、何も日本だけではないことを最後に書き留めておこう。

最近読んだ本に “The Almost Nearly Perfect People – Behind the myth of the scandinavian utopia. By Michael Booth” というのがある。これは著者がデンマークの幸福度に魅せられたのがきっかけで、北欧諸国5カ国を旅して興味のあるテーマについてインタビューしたり体験したりするという内容。この5カ国をひとくくりにされやすいがそれぞれ異なる異文化理解を促す部分もあり、ウィットに富んだユーモア溢れる文体。興味ある方は読んでみて日本で受け取る北欧諸国のイメージや理解と比較しても面白いと思う。

ちなみにこの本を家人に見せたら「は?理想郷がどこにあるのかオレの方が知りたいよ」と言って寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

ブックイヤーに見るフィンランドの読書文化

 

今年のフィンランドはブックイヤーだ。

以前からフィンランド国民の読書量が世界1位や2位などと聞くが、その理由がよく分かる(厳密にいうと読書といっても「本」だけに限らず「新聞」「雑誌」「広告」なども含まれるようだ)。

図書館の充実度が高いことや本に関するイベントが多く、日常的に「読書」というものが自然に根付いている。

それに何と言ってもこのキャンペーンにフィンランド大統領が「国家プロジェクト」として後援している。

Niinistö(ニースト)大統領はこんなことを国民に向けて発言している。

「読書とは、われわれフィンランド文化の軸となるものだ。多くの子どもや青少年たちは沢山の本を読んでいると思うが、まだ読書慣れしていない子どもにはもっと多くの読書時間を裂く必要があると思う。そこで国民の全ての子どもたちに本を読ませて(読んであげて)、彼ら自身の人生を豊かにする。読書を行うことは、物事を「考え」「想像し」「心で感じ取る」こと。それに読書は「楽しい」ものである」

特別なことは言っていない。日本でも聞き慣れたことだ。

これを一国の大統領が国民に向けて発信していることが、やはり国民一人ひとりの人的資源を重視している小国家のサバイバル術であると、外国人の私はそう思うのである。日本の首相や都道府県知事などの立場の人がこのようなことを国民に発した場面を一度も見たことないから、なおさらそう思うのである。

ちなみにこのNiinistö大統領の妻であるMrs. Jenni Haukioは詩人であり、過去に国際ブックフェアーのプログラム監督を担当するなど文学分野に精通している。

 

 

フィンランド語は、もともと世界の中でもマイナー言語として存在しているようで、当然のことだがフィンランド語の本の出版市場が他の欧州市場と較べて小さいということを耳にしたことがある。そのような理由でこうしたブックイヤーなどというキャンペーンを掲げる部分も一つにはあると思う。

しかし恐らくフィンランド人の心のふるさととも言われている“Kalevala”(「カレヴァラ」)を基に、自分たちの言語や文化、歴史に対する誇りが強くあるが故に、読書という行いが根強いのではないかと想像する。ちなみにこのKalevala、フィンランド人にとっても非常に読みでがある本なので、読破したというフィンランド人は残念ながら私の周りにはいない(子ども向けの絵本など簡単に読めるものはある。また単に興味がないという人もいるが)。

 

子どもの頃から夜寝る前には必ず本を読んでから寝る、どこかへ出かけるときには必ず1冊本を持っていく、などと言われて育った家庭が多い(もちろん全国民、全家庭ではない)。

私の知人の娘が我が家に泊まりに来たときに何を読んでいるのかを聞いてみた。返ってきた答えは、“Aku Ankka”(アクアンッカ)。ドナルドダックのマンガなのだ。これは青少年に限らず大人でも楽しめるマンガでフィンランド国民に人気の本だ。

そして子どもたちに本を身近に楽しんでもらおうと、各地の図書館でも様々なイベントが目白押し。地域によってその内容は異なるが、我が家の地域では映画上映会から読み聞かせ会、朗読会などさほど日本とは変わらないイベントが連日行われている。

最近では、eBooksや日本の某番組で紹介されていたように楽器の貸し出しなどを行う図書館もある(これも全国の図書館ではない)。図書館に隣接したカフェで借りた本を読んだり、目の前の広場で友人たちとおしゃべりしながら本について語り合ったりと、どこの国でも変わらない図書館の風景がある。

また車による移動式図書館も充実していて、都心部から郊外、田舎、国境付近のフィンランド全国津々浦々までに本を届ける仕組みができている。

 

仕事をしている大人は、夕方4時になれば仕事が終わるので、就寝までの時間を充分に読書へ充てることができる。

フィンランド人にとって一年で最も大切なクリスマスには、クリスマスプレゼントとして本を贈る人も多い。

 

夏は朝4時から夜11時までサンサンと降り注ぐ太陽の下でサングラスをかけて日光浴がてらの読書。夏休みには湖のほとりのサマーコテージで心ゆくまで読書。

冬は一日中降りつづく雪を見ながらロウソクを焚き暖炉を目の前にしての読書。語学学校のある先生は、1週間ある休みの間、ほぼ毎日朝から晩までソファーに座って読書三昧だとか。

 

というわけで、こうした本を取り巻く環境が充実しているから「本好き」な国民が多くいるのだろうと感じる。

 

 

しかし日本と同様に若者の本離れがここでも言われているようだ(紙の本離れらしいが)。フィンランドの学生、それも小学生ぐらいからスマホを持っているので(実際、前述の娘は12歳の誕生日プレゼントにスマホをもらっている)、彼らはそちらへの興味が高いようだ。

そういう現状であるからかどうかは分からないが、このキャンペーンでもSNSを使った情報発信がかなり活発だ。ハッシュタグでどんな人々がどんな本を紹介しつぶやいているのかを見るだけでも面白い。

 

ホームページでは月ごとに各地での催し物を紹介しているので、もし年内にフィンランドへ渡航される本好きの方は一度このキャンペーンを見てみるのも良いかもしれない。ただし、公式言語のフィンランド語とスウェーデン語の案内となるが。