フィンランド・トゥルクで起きた無差別殺傷事件について

*事件後の捜査などで明らかになってきたことなどを、随時、追記および修正しています。

2017年8月18日午後4時ごろ、フィンランドの古都、トゥルク市の中心地において、無差別殺傷事件が発生しました。2人が死亡、8人が重軽傷を負い、このうち3人が危篤状態です。

フィンランド南西部の警察によると、容疑者は18歳のモロッコ国籍の男性。警官が容疑者の足を撃って、身柄を拘束し現在病院にて治療中。この他に4人が拘束されました。現在、殺人とテロの両方から捜査を行っています(8月19日午後2時現在)。容疑者は昨年難民として入国し、トゥルクの難民収容所にいましたが、滞在許可がおりていなかったとか(以下8月21日に追加情報あり)

事件当時、16:02に警察へ緊急事態発生の連絡が入り、警官が現場にかけつけ、容疑者の足を撃ったのが16:05。たった3分で容疑者を抑えましたが、死傷者が10名となりました。

トゥルク市は人口およそ19万人。トゥルク港があり、隣国スウェーデン人が多く住み、ヘルシンキと同様、街中の標識はフィンランド語とスウェーデン語で表記され、やや外に開けた街です。

実はこのトゥルクには2014年から住んでいます。同日の朝、まさにその現場にいました。事件発生のちょうど6時間前。このニュースを聞いた途端、身震いがしました。

現場は、トゥルク市のシンボルの一つであるマーケット広場。自宅からバスで10-15分ほどのところで、日本でいうなら、自宅の最寄駅にあるショッピングセンターや商店街が狙われたという感覚でしょうか。

このニュースは日本でも報道されていたようで、実家をはじめ友人知人たちから安否確認のメッセージが来ました。

まさか自分の住む街でこのような惨事が起こるとはありえない。一方で、19万人の街でも何が起こるかわからない。こうした想いが常にありましたが、残念なことに起こってしまいました。

フィンランドは安全で差別のない国。そんな声はもう世界からは言われなくなるでしょう。それは今、明らかになっただけであって、国内では以前から安全性や差別に対する事件が報道されており、いつもそのギャップに挟まれていました。

そう、世界中で安全な国や地域は、もはやありません。

 


追記8月20日

事件が起きた翌日、事件現場にはロウソクや花束が手向けられ、多くの人々がこの惨事を嘆いていました。

その傍らで、外国人、移民・難民者反対!というデモと、それに反対する(人種差別に反対する)人々が対立し、その周囲を警察が取り囲むという、まさに今の世界を縮小しているような光景がありました。

そして2日後の20日午前10時から、事故現場で黙祷が捧げられました。

 

今回の容疑者は今のところテロ組織ISISとの関与はないので(テロ組織の犯行声明は発表されていない)、おそらく個人として何らかの動機があっての行動に移ったのだと推測されています。

各メディアで「テロ事件」と書かれていますが、現状はテロ組織とは関係ないので、「無差別殺傷事件」「通り魔事件」というのが事実かと思われます。

今回の容疑者がモロッコ国籍の難民、というだけで、難民=テロリスト、と誤解する人が多いですが、それは偏見にすぎないと思います。

実際、この容疑者を捕まえようとして追いかけたり(以下8月21日に追記情報あり)、負傷者を助けた人の中で難民の方もいたと報道されています。その方達へのインタビューもあります。ですから、誤解してはなりません。

この偏見が脅威的な人種差別主義となって、フィンランド国内では頻繁にデモなどが展開されています。

移住してからは、人種差別主義者の際立った行動が報道されたり、実際目にすることが多いです。そのたびに、自分はここでは外国人であることを再認識させられます。

喋る言語がフィンランド語であっても、容貌はアジア人、日本人。ですから、国籍が例えフィンランドであっても「外国人」と断定されます。今回、最初の報道で容疑者の容貌を「外国人風」と表現されました。

 

2年前の難民受け入れ当時も反対デモは繰り広げられていましたが、今回の事件でさらに広がると思われ、フィンランド全土の警察はその対応に追われることになります。

難民受け入れ反対を叫ぶ前に、根本的に難民を作り出した社会背景や情勢、そして各国の受け入れ体制などについてをよく考え改善する必要があります。

自分の専門分野の持続可能な社会には「多様性」が必要、と言われます。しかし、一体、多様性とはなんでしょうか。今回の事件を受けて、私自身、移民として複雑な思いが募っています。

 


追記8月21日

容疑者についての追加記事です。容疑者は、難民申請の滞在許可が下りないことがわかりはじめたころから、それまで通っていたモスクに来なくなりました。また、難民収容所の近くにあるビザレストランのトイレを無断使用したり、水などを勝手に飲んだりするなどの行為があったということです。

次に容疑者を捕まえようとした人々についての追加記事です。事件当時、マーケット広場で仕事をしていたクルド人難民の男性が、周りの人々へ避難するよう呼びかけながら、犯人を捕まえようと追いかけていたようです。この方も、犯人に数カ所刺されています。

 

ここからは昨日のニュースの記事ですが、現在容疑者は治療中の病院に滞在していますが、容疑者を脅迫するような文書が病院に届いているようで、警察は病院周辺の警備も厳戒態勢に入っています。

こうした事件の真相が明らかになってくると、日本で過去に起きた秋葉原通り魔殺人事件が思い出されます。

 

本日午後のニュースでは、フィンランド南西部の警察が、今年2017年の始めに容疑者が過激な思想に傾倒している、との情報を得ていたとの報道がありました。しかし、国家セキュリティ情報局では、具体的なテロ計画の情報は含まれていなかったとしています。

こうした情報は、過去に1000件以上も寄せられ一つひとつをフォローしているが、優先順位付けるのが必要だと、情報局は説明しています。

また今回の容疑者は要注意人物リストには入っていなかったと話しています。

 

 

 

 

 

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平等で民主的、多様的な社会をめざすフィンランド

12月6日は、フィンランドの独立記念日だ。1917年にロシア帝国からの独立と完全自治宣言が採択された日である。

今年2016年は99周年にあたり、2017年は独立100周年にあたる。今年はこの100周年に向けてさまざまなイベントや企画がはじまり、来年の12月6日が待ち遠しい雰囲気になってきている。

そんな中、北欧の極右翼団体が100周年の独立記念を目指して愛国心活動を活発に展開している。今年9月にはヘルシンキでネオ・ナチ団体デモが展開され、これに反対した一人の若者がデモ隊の一人に暴力を振るわれ一週間病院で治療を受けたのち、脳出血で死亡した。

この事件はフィンランド全土に「人権とは何か?」「多様性とは何か?」ということを再認識させる出来事でもあった。同時に亡くなった若者の勇気を讃え、決してデモなどには屈しないという意見があちこちから聞こえてきた。

そして迎えた先日12月6日。この日も同じくヘルシンキ界隈でネオ・ナチ団体のデモが数団体、数箇所で展開される、というニュースが事前に流れてきた。

そこに画期的な情報が入ってきた。このネオ・ナチ団体のデモに参加した実際の人数 x 0.05ユーロを各人権団体へ寄付する、というキャンペーンだった。

キャンペーンの趣旨は、フィンランドの独立とは「平等で、民主的で多様的な社会を意味する」と考えるフィンランド人に、ファシストなどの極右翼を反対する機会を与える、というもの。さらに先の殺傷事件など過去の背景もあり、こうしたキャンペーンを展開する良い機会だという。

実際にネオ・ナチ団体には何人参加したかというと、警察の公式発表で180人。180 x 0.05ユーロで一人最低9ユーロを人権団体へ寄付することになった。

このキャンペーンには9,396人が参加し、フェイスブックでは2万以上のシェアがあったという。平均一人あたり0.13ユーロの寄付額にのぼり、およそ22万ユーロのキャンペーン額となった。

寄付に参加した人へは、各人種団体のリストが送られてくるのでそこへ自ら寄付するという。このキャンペーンの主催者は安全上のリスクを考慮し匿名を名乗り、参加者との直接の接触を避けている。

もちろん私自身もこのキャンペーンに参加し、フィンランドに由来のある人種団体へ寄付した。私自身、ここでは移民外国人のマイノリティーの一員として、いつ差別を受けてもおかしくない環境にいることも再認識した。

折しも独立記念日の4日後の今日12月10日は、世界人権の日。フィンランドは男女平等、多様性のある社会と評価されているが、こうした事件は後を絶たず、最近では難民への差別なども発生している。

100周年を目前にしたフィンランド共和国。より民主的な社会をつくるために、こうした反デモキャンペーンを展開する国民性に、やはり度肝を抜かれたのであった。