感染症と共に生きる時代へ〜その3「新たな人間の営みを考える」〜

ポストコロナにおいては、今までの資本主義経済を再考することが必要だという声があちこちから聞こえてくる。

コロナの直前辺りから1冊の本を読んでいて、その内容がこの資本主義経済を再考することの包括的な考えのベースになりそうなので、簡単に紹介したい。

本のタイトルは「ドーナツ経済が世界を救う」
数年前から日本でも紹介されているようなので、ご存知の方も多いかもしれない。

著書はKate Raworth(ケイト・ラワース)氏。経済学者でOxford大学の環境変動研究所の講師兼上級客員研究員。過去にはNGO団体Oxfamで上級研究員を務めるなどの職歴の持ち主である。

元々、政治学、哲学、経済学の学士に、開発経済学の修士と多様な学問を備えた多才なケイト氏が考える、21世紀の経済とは。

ドーナツ経済の7つの核

21世紀の経済のビジョンとは、「分配的で環境再生的な設計の世界経済」「バランスの取れた人類の繁栄を成し遂げることを目的とした経済」と本書には書かれている。

今までのような右肩上がりの成長路線の経済ではなく、人類の繁栄を成し遂げることが、これからの経済の成功とみなされるという。

では具体的にはどんな考え方があるのだろうか。本書では「ドーナツ経済の7つの核」を軸に構成されている。その7つとは、

  1. 目標を変える
  2. 全体を見る
  3. 人間性を育む
  4. システムに精通する
  5. 分配を設計する
  6. 環境再生を創造する
  7. 成長にこだわらない

では簡単にそれぞれをみていこう。

1, 目標を変える

人類全員が依存している生命の世界が守られる未来でなければならない。GDPの果てしない成長から、ドーナツ型のバランスの取れた繁栄が目標になる。

そしてすべての人類が平等に地球環境の容量内で資源を利用する権利があることも主張している。

2, 全体をみる

経済の大事な特徴として4つの供給主体がある。

  • 家計 ー 家族にとってもっとも基本となる財
  • 市場 ー 需要がある私的な財
  • コモンズ ー コミュニティのために共同で開発された財。コモンズはみんなで共有できる自然や社会の資源のこと
  • 国家 ー 国民全員のための公共財

この4つの主体がニーズや要望を満たす効果的な手段となる。

ちなみにアダム・スミスの経済理論のなかには、スミスの母親の役割は一言も出てこない。今までの主流派経済学では賃金労働の生産性が議論されてはいるものの、これらを支える無休労働はまるで問題にされてこなかった。

この中核経済をほとんど考慮にいれていない主流派経済学は、有給の経済がどれだけ無給の経済に支えられているかも見過ごされてきたという。

ということで新しいマクロ経済には家計の役割を組み入れることが第一歩だという。

3, 人間性を育む

21世紀の人間像に施すべき5つの大きな変更点を明らかにしてる。

  • わたしたちは利己的というよりも、社会的であり、報恩行動を特徴とすること
  • わたしたちの好みは固定されたものではなく、何に価値を見出すかはたえず変わりうること
  • わたしたちは孤立しているのではなく、依存し合っていること
  • わたしたちは計算高いというよりは、ふつうは大ざっぱであること
  • 人間が自然を支配しているというのは大間違いで、わたしたちは生命の綱のなかに深く組み込まれていること

20世紀の経済学の中心には経済人の肖像が掲げられていたが、人間はもともと社会的で、互いに頼りあっていたりして、生命の世界に依存している

その人間が形成される要素として、所属する社会・文化が影響される。その社会や文化には基本的な価値観が10個あるという。

自決、刺激、快楽、達成、勢力、安全、調和、伝統、善行、普遍主義

こうした価値観を行動経済学などを用いて刺激し、人々の行動が望ましい方向へと変わることを示している。

そもそも人類は自然界の中に生きていて、単に惑星に住んでいるのでないという。日々の経済活動の場を与えてくれている生態系全体の利益を考えて行動できるように意識を変えていかなければならない。

生命の相互依存の仕組みをよく理解した上で世界観を築いていける。そのためには、われわれ人類の人間性を育んでいくことが重要であり可能だという。

4, システムに精通する

システムとは、特徴的な行動パターンを生み出すような仕方であり、互いに繋がりあっているもののことを言う。

現代の経済・社会システムはだんだんと複雑化してきて、一つを解決しても他の部分は未解決のまま、または悪化するという状況である。

こうした複雑なシステムにおいては、一部に生じた小さな変化をすべてに関わる大きな変化に変えられる場所として、レバレッジ・ポイントと呼ばれている部分を理解する必要がある。

この複雑なシステムを観察し、どのように動いているかを理解し、これまでの歴史を知ることが大切であるという。

この複雑なシステムが効果的なものになるには、

  • 健全なヒエラルキー:システム構造が入れ子(下位→上位)システムのために利用される
  • 自己組織化:自らの構造を自ら増やし、変え、進化させる能力
  • 回復力(レジリエント):ストレスに耐えたり、立ち直ったりするシステム能力

この3つを備えられるようなシステムであること。また経済の構造自体に多様性と余剰をもたすことで回復力が強められるとも示している。

5, 分配を設計する

20世紀における不平等の考え方は、初めのうちは拡大するがやがて縮小に転じて、最終的には成長によって解消されるだろうといわれてきた。

だが現在は、不平等が生じて解消する気配すらない。

不平等を解消する代表的な方法の一つとして、フローネットワークがある。

このネットワーク内では、今までのような所得の再分配ではなく、土地や企業、技術、知識などの支配する力生じる富の再分配と、お金を生み出す力の再分配の方法が模索されるという。

6, 環境再生を創造する

現在の環境破壊は、今までの破壊的な産業設計の結果である。21世紀は、38億年の自然環境の実験から、自然を模範、基準、助言者とみなして設計することが求められる。

具体的には生命の循環プロセスを学び、「取ると与える」「死と再生」が繰り返されることを観察する。

また直線型ではなく循環型の経済を創造し、人工物だけではなく人間そのもの(コミュニティや信頼関係も含んだ)やBiosphere(自然界)、知識すべての富を生み出すことが求められる。

7, 成長にこだわらない

20世紀の経済理論は、長期的なGDPの成長を示す図が象徴的だった。しかし、自然界は永遠に成長し続けるものではない。これから21世紀に必要な経済は、成長してもしなくても、繁栄をもたらす経済だ。

それには財政的に無理のないものにするために、高福祉タイプの税制へと変革させるか、大企業・大富豪の税金優遇措置を廃止するか、さらには個人や法人の課税を蓄積された富への課税へと改変するか、などが提示されている。

いずれにせよ、バランスの取れた繁栄を遂げることが経済の成功と見做されることだろう。またそう願いたい。

そしてその成功の基準は金銭的なものではなく、豊かな生命の綱のなかでの人類の繁栄、という大きなビジョンを描くことが一刻も早く求められている。

以上7つの核を念頭におき、21世紀の経済学者はこの地球の再設計を行わなければならない。

そして今までGDP指標に頼ってきたわれわれ人間は、そもそも「生きがいを求める人間の心」があることを忘れてはならない

こうした生きがいは幸せを感じることにもつながる。その幸せが増進することが証明されている5つの行動とは、

  • 周囲の人々とつながる
  • 体を動かす
  • 世界に関心を持つ
  • 新しい技能を身につける
  • 他者に与える

とされている。

金銭的な成功基準ではなく、人間の心、そして人生にとっての大切なものに焦点をあてた繁栄をぜひとも遂げたいと心から思う。

かなり大雑把な紹介であったが、詳細はぜひ本書を読んで読んだ人それぞれがこれからの経済活動、人間の営みについて考えることができたらと願う。

著書のKate氏のホームページは、こちらから。

感染症と共に生きる時代へ〜その2「COVID-19後の世界における新たな変化」〜

フィンランドのシンクタンク”Demos Helsinki”にて先日「COVID-19後の世界における新たな変化」と題してWebinarが開催された。そこでの議論および、フィンランドをはじめ世界におけるこれからのゲームチェンジを考える備忘録として照会する。

 

この日の議題は、以下4つであった。

  1. 危機は常に社会の変化を加速させる
  2. COVID-19後の7つの新たな変化
  3. 今日わたしたちにできることは?
  4. いま共有する4つのポイント

2と4に注力して紹介する。

 

COVID-19後の7つの新たな変化

「企業」「政府」「市民」の3つのセクターの関連性の切り口として、新たな変化を捉えていた。

7つの変化とは

  1. Steering:主導
  2. Platform Governance : プラットフォームガバナンス
  3. Global systems : 国際的なシステム
  4. Governance:ガバナンス(統治)
  5. Universalism:ユーニバーサリズム(普遍主義)
  6. Work:労働
  7. Consumption:消費

現状は

 

1: 主導
経済成長を目的とした政府主導である

2: プラットフォームガバナンス
今後数年間のテーマである

3: グローバルシステム
複雑な経済システムである

4: ガバナンス
アプローチと出現の分岐ガバナンスである

5: 普遍主義
政策成果を提供するための新しい方法への需要が高まる

6: 労働
失業率は急速に上昇し続ける

7: 消費
消費パターンが根本的に変わる

 

 

これから数年後には

 

1: 主導
運営(主導)と実行可能(実践)主導

2: プラットフォームガバナンス
公益プラットフォームと私益プラットフォーム

3: グローバルシステム
国際的な生産ネットワークとローカルな生産ネットワーク

4: ガバナンス
変革的と安定的な統治

5: 普遍主義
団結・結束型と広範囲にわたるサービス提供

6: 労働
生涯学習と構造的な失業

7: 消費
eコマースと価値に基づく消費

 

いま共有する4つのポイント

まだまだ収束の見通しが立たない現状で一旦世界と共有することは、

  1. 未来を予測する
    将来の見通しを明確にすることから一旦離れて、常に仮説をテストして再評価する
  2. 新しい役割を再考する
    新しいことは、新しいプレイヤーをイメージすることから始まり、最終的には権力の再分配につながる
  3. 能力を高める
    変化を先導するには新しい能力が必要であり、これは個人と組織の両方に当てはまる
  4. レジリエンスを構築する
    弾力性・回復力のある運用モデルは、将来危機が迫ってきた時に現在よりも優れた対応ができる

 

セミナー中に参加者へいくつか質問があり、その内容と多数の回答があった項目を照会する。

Q1. 現在の危機によって最も増幅される傾向はどんなことでしょうか?

  • デジタリゼーション
  • ローカリズム(地域主義)
  • レジリエンス(回復・弾力性)
  • テレワーク・リモートワーク
  • 不平等
  • メンタルヘルスへの障害
  • 分断

Q2. 政府とテクノロジー企業の関係はどのように変化しますか?(賛同者数)

  • ハイテク大手企業が成長する (およそ80人)
  • 政府とテクノロジー企業の間の協力が深まる (およそ170人)
  • 政府はハイテク企業の経済活動を制限するように働きかける (およそ60人)

Q3. 個人消費においてはどのような変化があると思いますか?

  • 航空旅行の削減
  • 消費の削減・生産の削減・本質的な購買へ
  • 地域のサプライチェーンやビジネスを支援
  • DIY文化の増加

Q4. 根本的な福祉制度の改革はどのように変化すると思いますか?(賛同者数は特に開示されず、やや論点として持ち越した)

  • 危機を乗り越えるための瞬間的な支援
  • 永続的な経済援助としてユニバーサル・ベーシック・インカムを導入
  • 成長ではなく、人間界と自然界に焦点をあてた経済システムへシフト

Q5. 今日からどんなことをやりますか?

  • この状況、もしくはこれから来るだろう新しい世界へフィットさせるために、自分のルールを再考する
  • 常にポジティブでいる
  • サステナブルな生活として、地域のビジネスや食を支援し続ける
  • 次世代と一緒に学ぶ

 

4つのポイントの一つとしてあがっている「未来を予測する」は、決して目標計画をつくることではない。

いま自分がどんな社会をつくりたいのか、どんな社会に住みたいのか、どんな社会で生きていきたいのかを想像・創造しながら常に実装し改善することの繰り返しが、これからの社会には必要である。そこには新しいルールや役割を設定し、かつそれも改善を繰り返すことでレジリエンスを構築していくことになるのだろう。
わたしたちが心底大切なものを守りながら。

資料元:DemosHelsinkiのWebinarより